どっこいしょニッポン【後編】

日本の畜産を応援するどっこいしょニッポン様に記事を掲載頂きました。大変お世話になりました。本年も日本の畜産業界のご多幸と繁栄を心よりお祈り申し上げます。https://dokkoisyo.jp/work/6291/

豚を通して、命とは?を投げかける豚造形家。【後編】

<メイン写真>筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)

養豚農家に生まれ、その生い立ちの影響から豚にこだわった数々のアート作品を作ってこられた小野養豚ん(おの ようとん)さん。造形を中心にドローイングやコラージュと、
その表現方法もさまざまで、多くの作品には一般の消費者感覚にはない、
生産者独自の視点やテーマが込められています。後編ではそうした作品を紹介しながら、創作時の彼女の心境や作品を通して投げかけたいメッセージなどについてお聞きしました。

初期の作品はリアルで強いメッセージ性に

大学時代のもうひとりの恩師であり、今は亡き金属彫刻家の原武典先生から「ひとつのことを10年続けなさい」と言われたことが、今でも豚をモチーフに創作活動を続ける理由のひとつ。
ただ、20年以上の創作活動の間には作品に対する考え方にも変化があったとのこと。
「作品づくりを始めた頃はまだ若かったこともあり、伝えたいメッセージを直接的に表現していましたね。
当時のテーマとしては《命あるものを食べているという意識の希薄さ》への問題提起でした。
例えば『裸々々(ららら)』という作品は、母豚10体が並んでお尻を観る人に向けています。養豚での母豚は“子を産むだけの役割を繰り返す存在”で、その象徴的な表現で観る人に命のありがたみを感じて欲しかったんです」
普段、意識せずに豚を消費している人には、確かにドキッとさせられるメッセージ。観る人に《命あるものを食べている》ということを再認識させる強さがあります。

表現を考え直すきっかけは
子供たちのストレートな反応

しかし、ある展示をきっかけに小野養豚んさんの心境に変化が生まれました。
「2007年、神戸ビエンナーレに『群(ぐん)』という作品を出品しました。
これは2,000個のミニチュア豚がコンテナの中でひしめき合っているものなんですが、この作品を観たお子さんの感 想が「怖い」「気持ち悪い」というもので…」

良くも悪くもお子さんは素直。
感じた印象をストレートに声にしてしまったんでしょう。
「それ以降、自分のメッセージを伝えるためには“観てもらえる作品”を作ることが大切だと思うようになり、ゴロンと丸みがあって愛らしい豚を表現するようになりました」

どんなに表現が変わっても
伝えたいメッセージは不変

2019年に発表した作品は、カラフルで可愛らしくポジティブな印象。
いわゆる“インスタ映え”しそうなビジュアルです。
作品づくりを始めた頃から比べると大きな変化を遂げています。

「この作品は『Piglicious(ピグリシャス)』というタイトルで、英語の“Pig(豚)”と“Delicious(美味しい)”を
組み合わせた造語です。見た目は色鮮やかで夢と現実が入り混じるような世界ですが、やはりこの作品でも食肉として消費される豚、
愛玩動物としての豚、さらには人間という3つの関係を表現し、“夢 (生)”と“現実(死)”がテーマとなっています」

可愛らしい豚やリアルな豚たちに混じって巨大な豚顔の人間?がソファに横たわる。色鮮やかなビジュアルであればあるほど、
その裏にある消費する側と消費される側の関係性が伝わってきます。
小野養豚んさん独特のアイロニカルな表現が印象的な作品。
インタビューの最後に、今後の作品づくりについて尋ねてみると、
少し想いを巡らせながらお話ししてくれました。

「この先、新しい作品づくりで取り組みたいと思っているテーマ。
それは“母”であったり“命を宿す”というものになると思います。
養豚でも母豚がいないと新たな命は誕生しないわけですし、
母という存在をもっと深く考えて、作品としてアウトプットしたいという想いが
強くなっています」3年前にご自身に大きな影響を与えたお母様が他界され、昨年には待望の子が産声をあげることなく天国へと旅立っていったことも、
今まで以上に命のことを強く考えるきっかけになっていると話してくださいました。
1年後には名古屋で個展も予定されているとか。
豚を通して新たなテーマをどう表現するのか、
小野養豚んさんの今後の作品に期待が膨らみます。