どっこいしょニッポン【前編】

日本の畜産を応援するどっこいしょニッポン様に記事を掲載頂きました。大変お世話になりました。本年も日本の畜産業界のご多幸と繁栄を心よりお祈り申し上げます。
https://dokkoisyo.jp/work/6278/

豚を通して、命とは?を投げかける豚造形家。【前編】

筑波大学キャンパス内、芸術学系棟。
そこに豚造形家、小野養豚ん(おの ようとん)さんの研究室があります。
研究室の扉を開けると、早速リアルな豚の造形がお出迎え。
見渡せば、研究室内は豚、豚、豚…

さまざまな表情の豚たちで賑わっています。
学生時代から豚の造形を中心に作品づくりを行ってきた養豚ん(ようとん)さん。
現在は創作活動を続けながら、筑波大学の芸術学系総合造形領域の助教として立体造形や特殊メイクなどを学生たちに教えています。

養豚業とご両親の姿が数ある作品の原点に

そのユニークな名前が物語るように、養豚んさんのご実家は養豚農家。小さい頃から豚の糞かきなどお手伝いもしていたそうです。
そうしたご自身の生い立ちが作品に色濃く影響を与えているとのこと。

「両親が養豚業を営んでいたことから、物心ついた時には私にとって豚は「食べるため」の存在でした。繁殖させ、育て、出荷する。それが当たり前の風景でしたね」
一筋縄ではいかなかった養豚業。ご両親の苦労する姿も見てきたからこそ、
その記憶は強く残っているのでしょう。
こうした小野養豚んさんの生産者的ともいえる感覚は、
やがて創作活動のベースとなっていきます。

“生”というテーマを軸に一貫している創作活動

豚のアート作品というと「可愛い」側面を描く作品も多いなか、小野養豚んさんの作品の多くはとてもリアル。その質感や表情は、豚に囲まれ、間近で見続けてきたからこそ再現できるものなのでしょう。
そして、作品のテーマも食肉として消費される『現実の豚』を、
さまざまな視点から表現しています。

「アートを観る方は、一方で豚肉の消費者でもあります。家で豚を飼育し、各家庭で屠殺して食肉としていた私たちの親の世代に比べ、現代の消費社会では養豚業の生産がシステム化され、一般消費者には食肉にされていく過程が見えなくなっています。私たちの世代でも本物の豚を見たことがないという方もいらっしゃいますから。結果、命あるものを食べているという意識が希薄になっているように感じます。なので『命の価値』や『命をいただくことのありがたみ』を、少しでも私の作品から感じ取ってもらえればと思っています」

苦労の日々を乗り越え歩み始めたアートへの道

では、いつ頃からアートに興味を持ち、
豚をモチーフとした作品づくりを始めたのでしょうか?

「子供の頃から絵を描くことは好きでした。
ただ、小学校、中学、高校と熱中したのはバスケットボール。その反動からなのか、
高校でバスケットボールを引退した時にはやりたいことが見つかりませんでした。
そんな時、友人が美大に進学すると聞いたので私も興味を持って…でも、そんなに簡単ではないですよね(笑)。
毎日毎日デッサンの練習をして、2年の月日を経てようやく美大へ進学することができました」

特異な環境で育ったことに気づかされた恩師のひと言

念願叶って美大に進学した後、小野養豚んさんは再び悩みを抱えることになったそうです。
「美大受験のために石膏像をひたすらデッサンしていたのに、大学入学後、それが急になくなったら今度は何に取り組めばいいんだろうって…」。
そんな時、小野養豚んさんにとってその後の創作人生を決定づける人物と出会います。
「当時、相談に乗ってもらったのが現在も金属彫刻家としてご活動され、当時、大学の金属彫刻の講師でもあった佐藤忠先生でした。
先生の「そんなに無理しなくていい。まずは身の周りのことを振り返ってみたら?」という言葉で、私は自分が生まれ育った特異な環境を思い出し、豚をモチーフにしてみようと考えたんです。」
小野養豚んさんはそれから20年以上も豚にこだわり、
独創的でメッセージ性の強い作品を世に送り出してきました。
養豚場という特異な環境だからこそ生み出される作品がここにはありました。
次回は、作品に込められた思いに迫ります。