ぶたさん、ごめんなさい。

たまに思い出す

「ぶたさん、ごめんなさい。」

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今は5歳の身長が平均以上で小学3年には間違われる甥っ子。 この子が3歳の時、小野養豚場にふたりでお散歩へ行った。

甥っ子のパパとママが養豚の仕事をしている風景を横から一緒にしゃがんで見ていた。いつもなら餌やりと掃除を一通り終えると、子豚を移動したり、餌の手配をしたりなど別の業務を行う。しかし、この日は一通りの仕事が終わると豚小屋の奥から鉄の檻がぶつかり合う音と痛々しい豚の鳴き声が交じり合い、慌ただしい音が聞こえてきた。

甥っ子とふたり、豚小屋の外で地面にしゃがんでアリを観察をしていたが私たちはその音に呼ばれるように顔を持ち上げた。

ガッシャン ガッシャンとユンボが登場し、ユンボのショベルにパパが太い縄をしっかりと結わえていた。その縄を豚小屋の奥まで引っ張っていった。ユンボを操作するのは甥っ子のママ。小屋の奥からパパが叫ぶ。

「いいぞー」

ユンボをバックさせるママ。太い縄がピーンと引っ張られ、テンションが掛かる。パパは小屋の奥の何と縄を繋げたのか、それが重たくてユンボがなかなかバックしない。

ガッシャン ガッシャン ガガッガッ ガガガッ

ユンボと格闘するママ。なかなか動かない。パパが豚小屋の奥から走って出てきて、ママとユンボの運転を交代した。

ガッシャン ガガッ ガガガッ ガッシャン ガッシャン

ユンボがゆっくりとバックする。ピーンと張った太い縄が長くゆっくりと動いていく。ようやく、縄に結わえられていた姿がゆっくりと見えてきた。

悲痛な大豚の叫び。

前脚で必死に抵抗するが、腰から後ろ脚はぐったりしている。ユンボがゆっくりとバックする。自力で歩けない大きな母豚が引っ張り出されて来た。自力で歩けない母豚など人間の力では到底動かすことはできない。体重は200kg以上ある。

外に出された母豚は、細菌が脊髄に入った病気を患ってしまい、腰から下、人間でゆう下半身が機能していなかった。このため、母豚の仕事である子豚出産は不可能で子豚を育てることさえ出来ていなかった。この母豚は養豚場では機能できない物、仕事ができない豚。こうなってしまったら、出荷するしかない。この日、母豚は農協へ引き取られ、加工肉として処理するため引き取られて行った。

一部始終を眺めていた3歳の甥っ子はジーッと苦しそうな母豚を見据えながら、

「ぶたさん、ごめんなさい。」

と呟いた。まだ、3年間しか生きていない子どもが瞬時に察知した生産者と生産された豚、双方の辛い苦しみをこのひと言が表していた。