モノからコトへ:社会に介入する芸術的実践

韓国を代表する現代美術作家、ヂョン・ヨンドゥによる大規模な個展が水戸芸術館にて開催されています。2015年1月18日この個展開催を記念して、日韓のキュレーターによるシンポジウムが開催されました。地域活性化と連動したアートプロジェクト、アーティスト・イン・レジデンス事業の実施など、現代美術の現場で活躍するキュレーターを迎え、東アジア内での文化地図の変化を背景に、両国の現代美術やそれを支える施設や制度の変化について情報や問題意識を共有しながら、政治的な緊張関係を克服し、将来の協働の可能性を話されました。

「今、私たちの隣に誰がいるのか」

シンポジウムは3つのセクションに分かれ、日韓キュレーター1名ずつがプレゼンしました。

1,「身体か頭脳か:ポスト・フェミニズム時代の女性アーティスト、キュレーターたち」

2,「何のためのビエンナーレ?:大型国際展は都市と住民、アーティストに何をもたらしているのか」

3,「モノからコトへ:社会に介入する芸術的実践」

中でも、興味深かったのは3,「モノからコトへ:社会に介入する芸術的実践」でした。

韓国のキュレーター、シン・ボスルさんが活動されている”Roadshow”が印象深く、アートの役割を考え直すプレゼンをされました。”Roadshow”は、アーティストを滞在制作型として召喚しますが、ここでは展覧会を最終目的とした作品制作をアーティストに押し付けません。プレッシャーをアーティストに与えず、ゲリラ的に作品制作してもらったり、特に作業する訳ではなく語り合うのみということがあったり、最終形を作らない活動だそうです。

活動資金は国の助成金で賄われます。海外から数名のアーティストを呼び寄せ、滞在費も支払うため、安価な活動ではありません。国民の税金を使用して、展覧会という形で一般公開しないことに疑問を抱かれたり、否定的な意見を述べられることがあるそうです。

シンさんが”Roadshow”の活動を始めた理由は、この活動の前は美術館の企画展を立ち上げ、さまざまな展覧会の経歴を作っていきました。しかし、作品制作、展覧会をすることを最終形とすることが、ショッピングしているみたいと感じたそうです。会場を選んで、テーマに沿った好みのアーティストを選び、展示会場を作品で装飾し、観客を入れて会場の綺麗な姿を観てもらい、終わるというルーティーンがまるでショッピングしているようで、買い物の後の空虚さがあったそうです。

シンさん的には、最終形を取らない実験的な”Roadshow”のつもりでしたが、蓋を開けてみると、結果が付いてきたそうです。シンさんは結果を求めてないのですが、作家が映像をいつの間にか制作していたり、展覧会を開催していたり、日々の動きが形として立ち上がってきたのです。

国民の税金(助成金)を使用して展覧会、作品制作をしない取り組みについて言いました。アートは普遍的なモノであり、シンさんは現在、時代と社会に訴えるその価値のモデルをつくっているため、パブリックにはプレゼンしないのだと。超越の可能性を実験するのがアートであり、過去のパブリックという概念を考え直し、関係性を広げていくことが目的なのです。そしてその結果、芸術は世界を変えられないが、人を変えられる、人が変わっていけば、世界が変わるだろうとアートが社会に介入する役目について答えられ、今までのアートの役割を見つめ直すきっかけともなりました。

人が変われば、世界が変わる。昨今の世界情勢に緊張感を覚えますが、人間の根源ともいうべきアートスピリットを人対人の間にどのようにすれば灯していけるのか、と考える時間ともなりました。